彼女も価値観や波長が合うなど、内面的な要素を重視していたため、僕がカニクリームが大好きだったことが相当気に入らなかったのか、次の日も彼女の機嫌が直ることはなかった。
「おはよう……」
気を使って小さな声でこちらから声を掛けたが、彼女は無視。外見が好きになってくれたわけではないから、僕の顔を見た所で機嫌がよくならないのだろう。確かに僕は、イケメンではない。
いつものように挨拶さえ返してくれれば、こちらから謝ろうと思ったが、無視をされたので、謝る気が失せた。むしろ、さらに怒らせてやろう、イライラさせてやろうと思った。
「はぁーこっちがせっかく折れて挨拶をしてあげたというのに、無視ですか、そうてすか、無視ですか、牛肉コロッケさんは……」
「まったく家庭的じゃない。挨拶1つできない人のどこが、家庭的なんだろうか」
彼女に聞こえるように、大きめな声で独り言を言った。嫌味を言われればさすがの彼女もこれには 無視はできないだろうと。
「無視じゃなくて、聞こえなかっただけです。滑舌悪いから、もう少しはっきり話した方がいいよ。それとも、カニクリームコロッケさんは、カニ語でも話していたのかな? 一体、どこに上品さがあるんでしょうね?」
「あれ〜おかしいな〜。昔から滑舌と歯並びは褒められてきた方なんだけどな〜。中学の時、弁論大会で1位になったことあるんだけどな〜」
「あれかな、1位になったことない人に限って、順位とか関係ないとか言い出すんだよね。1位に対する劣等感ってやつ?」
好きなものだけでなく、ある意味、性格も似ていたのである。負けず嫌いな所とか、意地っ張りな所とか、自分の意見を曲げない所とか。
似たような性格の人間の争いは長引く。引かない男と引かない女の戦いは、どちらかが倒れるまで、この争いは終わらないのだ。
「中学って……そんな昔の話を持ち出して、恥ずかしくはないのかな?」
「それに、この際だからはっきり言わせてもらうけど、あなたが入った後のお風呂は熱すぎて快適ではなかったから。ずっと我慢して言わなかったけれど、私、お風呂は昔からぬるめのお湯につかるようにしてるの。その方が健康に良いし、夜ぐっすり眠れるから」
とうとう彼女が関係ないことまで、持ち出してきた。こんなことを言われると僕も反論しないと気が済まないたちで。
ここからは、ルール無用の殴り合いが始まる。お互いが思っている不満、嫌いな所。この際、思っていなくたっていい。自分がいかに正しく生きているのかを示せればそれでいいのだ。もう、コロッケは関係ない。ここまで来たら、相手を否定できれば、なんだってよかったのだ。
「知らないよ。今、初めて聞いたんだから、自分の好みの温度にするよ」
「ていうか、それくらい言ってくれてもよくない?
ぬるま湯が好きなら、私ぬるま湯がいいんだけれどって一言、言ってくれれば、僕が出るときに水を足して、ちょうどいい温度にしておいたけどね。知ってればそれくらいの気遣いはできるけれど、声に出してもらわないと、そんなの分からないからね。僕は超能力者じゃないんだからさ」
「それに、僕は好んで一番風呂に入っていたわけじゃないけれど? 君がいつまでもテレビを見ていたりするから、僕が先に入らせてもらっているだけで、風呂に入る時間が遅くなるのは僕のせいじゃないからね?」
「ちょっと待って、なにそれ? 私がいつまでもテレビを見ているって? 私は食器を洗ったり、洗濯物を畳んだりしてやることが多くて忙しいから入れなかっただけだけど? じゃあ少しくらい手伝ってくれてもよかったんじゃない? 家庭的じゃないから、それすら難しいのかしら?」
「できないのならできないで仕方ないけれど、せめて、ありがとうくらいは言ってほしかったけどね。あなたの口からありがとうって言葉、ほとんど聞いたことないんだけれど。ありがとうって言葉、あなたの辞書には載っていないのかしら?」
「ありがとう? 僕は言ってるつもりだけどね。それを言うなら家賃、僕の方が多く払っているでしょ? それに関してのありがとうも、ごめんねも一度も聞いたことはないけれど、当たり前だと思っていたってこと?」
「家賃って、全部あなたが払ってくれているわけじゃないじゃない? 少し、ほんの少しだけ多く払ってくれているだけじゃない。家事、洗濯、全て変わってくれるなら、家賃全額払ったわよ、私が……」
1度ヒビの入ったガラスを割ることは、軽い衝撃だけで、次々にヒビが入る。1度ヒビの入ったガラスを割ることなんて簡単だ。そんなヒビの入ったガラスのように僕らの関係は徐々に悪くなる一方だった。
価値観が同じ、波長が合うとはいっても、クローン人間ではない限り、全てが全く同じなんて無理な話だ。全てが同じだというならそれはどちらかが無理している、どちらかが無理やり合わせているだけだ。
「おはよう……」
気を使って小さな声でこちらから声を掛けたが、彼女は無視。外見が好きになってくれたわけではないから、僕の顔を見た所で機嫌がよくならないのだろう。確かに僕は、イケメンではない。
いつものように挨拶さえ返してくれれば、こちらから謝ろうと思ったが、無視をされたので、謝る気が失せた。むしろ、さらに怒らせてやろう、イライラさせてやろうと思った。
「はぁーこっちがせっかく折れて挨拶をしてあげたというのに、無視ですか、そうてすか、無視ですか、牛肉コロッケさんは……」
「まったく家庭的じゃない。挨拶1つできない人のどこが、家庭的なんだろうか」
彼女に聞こえるように、大きめな声で独り言を言った。嫌味を言われればさすがの彼女もこれには 無視はできないだろうと。
「無視じゃなくて、聞こえなかっただけです。滑舌悪いから、もう少しはっきり話した方がいいよ。それとも、カニクリームコロッケさんは、カニ語でも話していたのかな? 一体、どこに上品さがあるんでしょうね?」
「あれ〜おかしいな〜。昔から滑舌と歯並びは褒められてきた方なんだけどな〜。中学の時、弁論大会で1位になったことあるんだけどな〜」
「あれかな、1位になったことない人に限って、順位とか関係ないとか言い出すんだよね。1位に対する劣等感ってやつ?」
好きなものだけでなく、ある意味、性格も似ていたのである。負けず嫌いな所とか、意地っ張りな所とか、自分の意見を曲げない所とか。
似たような性格の人間の争いは長引く。引かない男と引かない女の戦いは、どちらかが倒れるまで、この争いは終わらないのだ。
「中学って……そんな昔の話を持ち出して、恥ずかしくはないのかな?」
「それに、この際だからはっきり言わせてもらうけど、あなたが入った後のお風呂は熱すぎて快適ではなかったから。ずっと我慢して言わなかったけれど、私、お風呂は昔からぬるめのお湯につかるようにしてるの。その方が健康に良いし、夜ぐっすり眠れるから」
とうとう彼女が関係ないことまで、持ち出してきた。こんなことを言われると僕も反論しないと気が済まないたちで。
ここからは、ルール無用の殴り合いが始まる。お互いが思っている不満、嫌いな所。この際、思っていなくたっていい。自分がいかに正しく生きているのかを示せればそれでいいのだ。もう、コロッケは関係ない。ここまで来たら、相手を否定できれば、なんだってよかったのだ。
「知らないよ。今、初めて聞いたんだから、自分の好みの温度にするよ」
「ていうか、それくらい言ってくれてもよくない?
ぬるま湯が好きなら、私ぬるま湯がいいんだけれどって一言、言ってくれれば、僕が出るときに水を足して、ちょうどいい温度にしておいたけどね。知ってればそれくらいの気遣いはできるけれど、声に出してもらわないと、そんなの分からないからね。僕は超能力者じゃないんだからさ」
「それに、僕は好んで一番風呂に入っていたわけじゃないけれど? 君がいつまでもテレビを見ていたりするから、僕が先に入らせてもらっているだけで、風呂に入る時間が遅くなるのは僕のせいじゃないからね?」
「ちょっと待って、なにそれ? 私がいつまでもテレビを見ているって? 私は食器を洗ったり、洗濯物を畳んだりしてやることが多くて忙しいから入れなかっただけだけど? じゃあ少しくらい手伝ってくれてもよかったんじゃない? 家庭的じゃないから、それすら難しいのかしら?」
「できないのならできないで仕方ないけれど、せめて、ありがとうくらいは言ってほしかったけどね。あなたの口からありがとうって言葉、ほとんど聞いたことないんだけれど。ありがとうって言葉、あなたの辞書には載っていないのかしら?」
「ありがとう? 僕は言ってるつもりだけどね。それを言うなら家賃、僕の方が多く払っているでしょ? それに関してのありがとうも、ごめんねも一度も聞いたことはないけれど、当たり前だと思っていたってこと?」
「家賃って、全部あなたが払ってくれているわけじゃないじゃない? 少し、ほんの少しだけ多く払ってくれているだけじゃない。家事、洗濯、全て変わってくれるなら、家賃全額払ったわよ、私が……」
1度ヒビの入ったガラスを割ることは、軽い衝撃だけで、次々にヒビが入る。1度ヒビの入ったガラスを割ることなんて簡単だ。そんなヒビの入ったガラスのように僕らの関係は徐々に悪くなる一方だった。
価値観が同じ、波長が合うとはいっても、クローン人間ではない限り、全てが全く同じなんて無理な話だ。全てが同じだというならそれはどちらかが無理している、どちらかが無理やり合わせているだけだ。