娘の寝顔を最後に見たのは、一体いつだっただろうか。
 静かに眠る妻の顔が思いの外あどけなくて、思わず娘と重ねてしまう。
「黒髪を靡かせ、颯爽と仕事をこなす君の寝顔がこんなに可愛らしいだなんて。誰が想像できるだろうね」
 出会ってから既に三十年ほど経っているが、こんなに長い時間離れることは一度もない。名残惜しくて、ついついいつまでも、その寝顔を見てしまう。
 どれだけ見ていても飽きることのない、最愛の妻。
「榛奈。名残惜しいけど、そろそろ行かなければ」
 分厚い金属の蓋をして、彼女の身体の時間を止める処置を施す。妻としばらく会えないだけで、こんなにセンチメンタルになっていることを知られたら、きっと笑われてしまうな。
 妻そっくりに育った娘と、あの生意気な金髪の悪友に。
「さて、では終着駅に向けて出発するとしようか。真由にも早く会いたいことだし」
 早瀬湊は、舵を切る。終着駅は第九居住区。湊が生まれた場所であり、妻の榛奈と恋に落ちた場所。
 そして彼らの大切な一人娘が待つ場所である。