これで全てか。と小さく呟き、男は整然と並んで重ねられた金属製の箱たちを見上げる。
 数十年も前から、ここ、第一居住区の地下で密やかに、こんなにも巨大な船が作られているなど、誰が想像できただろう。
 地球上に残った全ての人類を乗せて、新たな星に向けた長い旅に出る。
 金髪の、まるでまだ子どものような風貌の青年からその話を聞いたのは、当時、航空宇宙工学の第一人者であったヨハンの祖父だった。なんと馬鹿げた夢物語だろう、と初めは半信半疑だったのだが、いつしか祖父は、青年の膨大な知識と緻密に練られた計画に心動かされたらしい。
 やがてその宇宙船の設計、建造が始まり、それは彼の父、そしてヨハンへと引き継がれた。
 そしてやっと今、その計画が現実になろうとしているのだ。
 ヨハン・カールソンは一人コックピットに立ち、船に出立の指示を出す。目的地は、第二居住区。
「このわしが宇宙船を作るだけではなく、まさかパイロットを務めるとはな。この世界にしては、楽しませてくれるではないか。……進むのが味気ない地下航路ということだけが残念だがな」
 第一居住区で生活していた全ての人々を乗せた船は進み始める。
 ただ一人の乗組員を除き、乗客は皆、長い眠りについたまま。