――生めよ、増えよ。地に群がり、地の上に増えよ。

 空には、大きな虹が描かれていた。
 美しい風。美しい水。美しい大地。
 ここは本当に、美しい世界。そこで生きている私は幸せで、満たされている。
 それなのに、吸い込んだ風が、心に、頭に、ぽっかりと口を開けた大きな穴に、吹き抜けてゆく。
 何か、とても大切なものが足りない。そんな感情だった。
 とても、喉が渇いていた。
 喉だけではない。身体中が、脳細胞の一つ一つが、何かを渇望していた。
 私に足りないもの。私が望むもの。
 それが何なのか、本当はわかっている。
 ねぇ、神様。それは本当に、罪なの?
 ……だったら私、こんな楽園、いらない。
 そうして、右手で握りしめていた艶やかな赤い果実を見る。後悔なんて、しない。
 つるりとした皮ごとそれを齧る。

 ーー神様の、嘘つき。

 私が欲しいのはこんな断片的な記憶じゃない。一口齧った林檎を楽園に転がした私は、慟哭した。もっと、もっと私に思い出させて。遠い星に置いてきてしまった、鮮烈な記憶を。
 僅かに思い出すことができたのは、薄暗い夜に浮かぶ、ぼんやりとした金色だった。