◇

 それから水戸さんは、しばらく学校に来なかった。担任の先生が言うには、熱が出たため休むと連絡があったらしい。この前、放課後雨に濡れたからだろうかと僕は、心配した。

「水戸さん大丈夫かなぁ」
「小春ちゃんが熱で三日も休むなんて、すごく心配」
「早く小春ちゃんに会いたいなぁ」

 いつも水戸さんと一緒にいる友達からは、そんな言葉が繰り返し紡がれる。

 水戸さんが学校に来ない間、僕は毎日放課後、河川敷や公園を探して回った。四つ葉のクローバーを見つけるために。
 毎日、帰りが遅くなる僕に両親は何も言わない。無関心だ。けれど、べつにそれでもよかった。

 そして今日もまた、放課後、いつものように河川敷へ向かった。あの日と同じく天気が悪い。今にも雨が降り出しそうな予感だ。

「頼む、あってくれ……」

 願いながら、芝生の上を探して回った。

 河川敷の上をランナーや自転車に乗る人たちが通り過ぎる。僕を見ているようだったが、そんなのおかまいなしに探した。

 ──ぽつり、ぽつり。

 分厚い灰色の雲から、雨粒が落ちる。

 けれど、僕はその場から動かない。逃げない。

 僕にとって、一分も、一秒でさえも惜しい。

 それに僕は。

「どうしても見つけなきゃいけないんだ……」

 彼女のために、必ず。

 ──水戸さんのことを思うと、胸が苦しくなる。

 あの言葉を思い出すと、胸がえぐられそうだ。

 誰にも内緒にしていた胸の内を、僕は勝手に盗み聞きしてしまった。

 情けなくて、申し訳なくて。

 それと同時に彼女の心を救ってあげたくて。

 ──この世界は、残酷だ。

 それでもたった一度、奇跡が起こると信じて。

 一生懸命生きる彼女に、僕は胸打たれた。

 だから、どうか。

 見つかってくれ──…

「──…これって……」

 真っ黒になった指先に触れた、四つの葉がついたそれは、間違いなく。

「……あった……見つけた!」

 四つ葉のクローバーだった。

 とてもとても、小さかった。

 けれど、一生懸命地面から顔を出して生きる姿はまさしく彼女そのもので。

「水戸さん、見つけたよ」

 僕は、安堵した。

 僕は嬉しくなった。


 ***


 翌日、少しだるさがあったが、見つけたクローバーを大切にハンカチに挟んで学校へ向かった。

 教室は、賑やかでもしかしたら……そんな期待をしてドアを抜けると、そこにはしばらく顔を見なかった水戸さんが、みんなに囲まれていた。

 そこにはいつもの景色が広がっていて、僕はホッと安堵した。

 ポケットの中にあるハンカチを思い出す。そこにはクローバーが挟んである。