◇

「な、なんですか」

 目の前に、釘崎くんがいる。

 これ、前にもあった。デジャヴだ。

「最近、水戸さんとよく話してねぇ?」
「いや、気のせいだと思う…けど…」

 僕は、罰が悪くて目を逸らす。

「じゃあなんで目、逸らすわけ?」

 そんな僕を怪しんだ釘崎くんは、逃げた僕の視線を追いかける。

「な、なんでってそれは、釘崎くんが怖いから……」
「はぁ?」

 ──ほら、それ。その表情に態度に声に。

 おまけに。

「そんなに睨まれたら誰だって怖いさ……」

 まるでヘビに睨まれたカエルのようだと思って、怖気付く。

「あー……悪い。べつに脅かしてるわけじゃないんだけどさ、水戸さんのことになるとつい……」

 がしがしと頭を掻いた釘崎くん。

 どうやら水戸さんのことになると、ムキになってしまうらしい。

 釘崎くんが水戸さんのことを好きだと知ってる僕にとって、それは驚くものではなかった。が、自分の思いに気付いてしまった僕は居心地がとても悪かった。

 だから、目を合わせられないのかもしれない。

 それに、〝病気〟のことだけは絶対に言えない。

 水戸さんは、僕でさえも言うつもりはなかったはずだ。それを偶然知ってしまった僕は、それを秘密にするという義務がある。

 だから言えない。誰にも、絶対に。

「牧野くん、ちょっと今いいかな?」

 釘崎くんと話していたとき、水戸さんの声が聞こえてギョッとした僕は分かりやすく動揺する。

「えっ、い、今……?」

 うわー、すごく視線が突き刺さる。ちくちくとかじゃなくて、グサリグサリ。鋭い刃物のような視線が、目の前から真っ直ぐと。

「うん、時間あるかな?」
「いや、ちょっと今は……」

 ちらっと視線を向けると、案の定、釘崎くんの鋭い目つきとぶつかった。

「ほんの少しで大丈夫なんだけど」

 水戸さんの言葉よりも、すぐそばにいる釘崎くんの方が気になって話どころじゃなくなる。

 水戸さんはおそらく〝やりたいこと〟についての話。できることなら今すぐにでも話を聞いてあげたい。が、今は僕にとって少しも、一瞬も、無理に等しくて。

「水戸さん、牧野と最近仲良いね」

 黙って見ていた釘崎くんが会話の中に入り込んでくる。

「え? ああ、うん。牧野くん、すごく優しいんだ」

 ぱあっと表情を明るくさせる水戸さん。