わたしの黒い前足が白くて長いきれいな手になって、あれだけ重かったはずの身体が軽くなった。届くはずないと思った彼の背中に手が触れた。
その瞬間、わたしの身体はどこか遠くに打ち付けられたけれど、不思議と痛みや恐怖はなかった。
気づいたときにはふわふわあったかいもので包まれて、大好きだった彼の腕に抱かれていた。
どうして、泣いているのだろう。
彼がなにか言っているけれど、うまく聞き取れない。
わかるのは、彼の腕のぬくもりと、落ちてくる涙のあたたかさだけ。
彼が、生きていてよかった。
わたし、生まれてきてよかった。
けれど、今度生まれてくるときは、彼と同じ人間がいい。
そう思いながら、静かに目を閉じた。