遠くで、彼の声がする。わたしを呼ぶ声だ。

いつも優しく響く声が、割れそうにかさついている。

もしかしたらあの日から、ずっと探し回ってくれていたのかもしれない。

最期に、ひと目会いたい。
そう思うけれど、脚にうまく力が入らなくて立ち上がれなかった。

すぐ傍で、彼がわたしを呼ぶ声が聞こえるのに。ひと鳴きしてみたけれど、前を通りすぎる車の音にわたしの小さな声はかき消されてしまう。

次第に彼の声も遠くなって、聞こえなくなってしまった。


……死ぬところを見られたくなくて離れたのに、最期に会いたいだなんて思ったのが馬鹿だったんだ。

そう自分を納得させようとしてもだめで、なんとか身体を起こして、路地裏からさっき彼の声がした方をのぞいてみた。

やっぱりそこに彼はいなかったけど、ゆっくりと歩きながら寂れた商店街を抜けた。彼がわたしをさがしてくれたように、今度はわたしが彼をさがして会いに行くために。