年齢はアンジェより一つか二つ上なくらいか。アンジェとは正反対で、化粧っ気がなく落ち着いた雰囲気の少女だ。
お姉さんは周囲をきょろきょろと見回しながら、早足で通りを歩いていく。
「ルル、ルル!」
近所に遠慮するような声で彼女が呼んでいるのは、アンジェの猫の名前だ。
「大変だ! ルルが逃げたみたい」
事情を察したらしいアンジェも、そわそわとし始めた。
「どうしよう! あの子、今まで家から出たことなんてないのに」
ずっと僕たちが家を見張っていたのに、一体いつ逃げたのか。相手は猫なので、窓から出て庭伝いに逃げればわからないか。
「捜さなきゃ」
「待てよ。気持ちはわかるけど、僕たちが行っても、猫をつかまえることはできないし、たとえ見つけても、家族に猫の居場所を教えることもできないんだよ」
「それでも、ここで待ってることなんてできないよ!」
いてもたってもいられないというふうに、アンジェの姿は消えた。
どうしたものか。
僕は溜め息をついて、やっぱりアンジェを放っておくことはできず、猫ではなく彼女の気配を捜して後を追う。
「ルル、ルル」
僕らの声は、たぶん猫にも聞こえない。
だけどそんなことにはお構いなしに、アンジェは大声で猫の名前を呼びながら、路上に停めてある車の下や、人の家の植え込みを覗いて回っていた。
幽霊の能力でどうにかできればいいのにな。猫一匹捜すだけの力もないなんて。改めて、幽霊の無能さを思い知らされる。
アンジェはなにか思いついたように、急にまた姿を消した。
彼女が飛んだ先は、住宅地の中にある小さな公園だ。中央には、滑り台やトンネルが合体した、お城の形をした大きな複合遊具がある。
アンジェはトンネルの前にしゃがんで、両手と両膝をついて中を覗き込んでいた。
「やっぱり……ここにいたんだね、ルル」
ホッとしたように呟く。
アンジェの背後から覗くと、ピンクの首輪をつけたキジトラ柄の猫がうずくまっていた。この前、アンジェの家の窓辺にいた猫だ。
「十年前、あたしがルルをここで保護したの。もしかしたら、ルルもあのときのことを覚えていたのかもしれない。なんとなく、ここにいるような気がしたの」
「見つかって良かったね」
「うん、良かった」
でも、まだそうとも言い切れないのだ。アンジェの家族がこの場所に気づいてくれないと、僕たちにはどうしようもない。
なにか知らせる方法はないものか。気まぐれな猫が、他の場所へ移動しないとも限らない。アンジェも心配そうに猫を見つめている。
「ルル、いい子だから、お姉ちゃんが迎えに来るまで、ここでじっとしててね」
ニャアン
猫が顔を上げて、小さく鳴いた。
まるで、アンジェの言葉に反応したみたいに。
月光のような金色の瞳は、まっすぐにアンジェを見ている。
「ルル、もしてして、あたしが見えてるの?」
ニァ……
猫がなにもない場所をじっと見ている、なんて話を聞いたことがある。
猫の神秘的なイメージから、彼らには人には見えないものが見えているんじゃないかと言われるけど、実際は、小さな虫や、かすかな物音に反応しているだけだという。
実際、この前、ルルは僕の姿はまったく認識していなかった。
「ルル?」
ニャア
ルルには、アンジェだけが見えているのだ。
お姉さんは周囲をきょろきょろと見回しながら、早足で通りを歩いていく。
「ルル、ルル!」
近所に遠慮するような声で彼女が呼んでいるのは、アンジェの猫の名前だ。
「大変だ! ルルが逃げたみたい」
事情を察したらしいアンジェも、そわそわとし始めた。
「どうしよう! あの子、今まで家から出たことなんてないのに」
ずっと僕たちが家を見張っていたのに、一体いつ逃げたのか。相手は猫なので、窓から出て庭伝いに逃げればわからないか。
「捜さなきゃ」
「待てよ。気持ちはわかるけど、僕たちが行っても、猫をつかまえることはできないし、たとえ見つけても、家族に猫の居場所を教えることもできないんだよ」
「それでも、ここで待ってることなんてできないよ!」
いてもたってもいられないというふうに、アンジェの姿は消えた。
どうしたものか。
僕は溜め息をついて、やっぱりアンジェを放っておくことはできず、猫ではなく彼女の気配を捜して後を追う。
「ルル、ルル」
僕らの声は、たぶん猫にも聞こえない。
だけどそんなことにはお構いなしに、アンジェは大声で猫の名前を呼びながら、路上に停めてある車の下や、人の家の植え込みを覗いて回っていた。
幽霊の能力でどうにかできればいいのにな。猫一匹捜すだけの力もないなんて。改めて、幽霊の無能さを思い知らされる。
アンジェはなにか思いついたように、急にまた姿を消した。
彼女が飛んだ先は、住宅地の中にある小さな公園だ。中央には、滑り台やトンネルが合体した、お城の形をした大きな複合遊具がある。
アンジェはトンネルの前にしゃがんで、両手と両膝をついて中を覗き込んでいた。
「やっぱり……ここにいたんだね、ルル」
ホッとしたように呟く。
アンジェの背後から覗くと、ピンクの首輪をつけたキジトラ柄の猫がうずくまっていた。この前、アンジェの家の窓辺にいた猫だ。
「十年前、あたしがルルをここで保護したの。もしかしたら、ルルもあのときのことを覚えていたのかもしれない。なんとなく、ここにいるような気がしたの」
「見つかって良かったね」
「うん、良かった」
でも、まだそうとも言い切れないのだ。アンジェの家族がこの場所に気づいてくれないと、僕たちにはどうしようもない。
なにか知らせる方法はないものか。気まぐれな猫が、他の場所へ移動しないとも限らない。アンジェも心配そうに猫を見つめている。
「ルル、いい子だから、お姉ちゃんが迎えに来るまで、ここでじっとしててね」
ニャアン
猫が顔を上げて、小さく鳴いた。
まるで、アンジェの言葉に反応したみたいに。
月光のような金色の瞳は、まっすぐにアンジェを見ている。
「ルル、もしてして、あたしが見えてるの?」
ニァ……
猫がなにもない場所をじっと見ている、なんて話を聞いたことがある。
猫の神秘的なイメージから、彼らには人には見えないものが見えているんじゃないかと言われるけど、実際は、小さな虫や、かすかな物音に反応しているだけだという。
実際、この前、ルルは僕の姿はまったく認識していなかった。
「ルル?」
ニャア
ルルには、アンジェだけが見えているのだ。