それは、雨の遊園地。
ジェットコースターは止まったまま。
メリーゴーラウンドの馬は、心なしか元気がなくて。
賑やかなはずの世界は、どこもどんよりと沈んで見えた。
グレーの空の下、濡れた観覧車だけがゆっくりと回っている。
日曜日なのに、天気のせいか園内は閑散として、家族連れの姿も少ない。
まだ九月なのに、肌寒くすらあったけれど。
そんなことは、僕にはどうでも良かった。
たいして好きでもない遊園地だって、雨が降っていたって、君と一緒ならどこだって楽しい。本気でそう思っていたから。
あの日、どうして遊園地に行くことになったんだっけ?
君もどちらかというと有名なデートスポットにはあまり興味がなくて、後にも先にも遠出したのはあの一回きりだったのに。ああ、そういえば。君が友達に割引券をもらったんだった。
雨のせいで休止中のアトラクションが多くて、僕たちはただぶらぶらと園内を歩いた。
君は相変わらず、好きな小説や漫画の話を熱く語り続けて。
僕もいつも通り、相槌を打ったり笑ったり。あまりの熱心さに、ときどき呆れたり。
今だから言うけど、君の話はマニアックすぎて半分も理解できていなかったよ。だけど、君の声と話し方は、いつだって心地がよかった。
帰り際に、どちらからともなく、
「晴れた日に、また来ようか」
と約束したのは、あまり深い意味はなかったと思う。
どうせなら、今度はジェットコースターにも乗ってみようか、くらいの軽い気持ちだった。
わずか一年ほどの君との付き合いの中で、交わした約束は、あのときただ一度きり。
いつか、行けると思っていたんだ。
いつかなんて日が、僕には来ないかもしれないことを、心の底では漠然と知りながら。
それが叶うと信じたかった。
あんな約束、君はとっくに忘れているかもしれないけれど。
加奈、君に言っていなかったことがある。
君との唯一の約束を果たせないまま。
僕は、もうすぐこの世界からいなくなるよ。