「お久しぶりっすね、先輩」
盗み聞きはいけないとわかっていながらも、少し歩調を緩めて、聞こえてくる会話に集中してしまう。
サッカー部の先輩、として後輩に接する優先輩に、なんとなく私と過ごしてるときとはまた違った頼もしさを感じる。
「なんで先輩、部活やめちゃったんすか? プロ目指してたんすよね?」
「お、お前、それは聞くなって……!」
そんな話題が聞こえてきて、思わず足を止める。
どういうこと? やめた? 先輩は部活を引退したんじゃ……。
聞いちゃいけない。聞かないほうがいい。妙な焦りが襲う。
でも好奇心ばかりは止めることができなくて。
「──現実見たんだよ。プロサッカー選手なんて俺がなれるわけないだろ?」
心做しか少しだけ冷めた声が、鼓膜を揺らした。
「嘘……」
誰にも知られず、そんなつぶやきが空気に溶けて。
ぐちゃぐちゃに混ざりあった感情のまま、その場から駆け出した。
──狭き門だから難しいかもしれないけど、ピアニストになりたい。
そう言った私を応援してくれた先輩は。
心の中で私に、現実見ろ、なんて言ってたのかな。
私にはなれるわけないって思ってたのかな……。
嫌な妄想は始めたら、止まることを知らない。先輩との別れを突きつけられたあとだから、余計に悲観的になっていたのかもしれない。
「はぁ……」
見上げた夜空は、とても暗い。
その日は月のない夜。新月の夜だった。
*
それから一週間、私はなんとなく先輩を避けるようにして音楽室に通うのをやめた。
──でも、私は忘れていた。
一週間が過ぎた、その日から始まる冬休み。
たとえそれが終わっても、一月から学校へは来なくなる3年生にはもう会えないんだってこと。
そうして私の魔法の放課後はあっけなく終わったのだ。
盗み聞きはいけないとわかっていながらも、少し歩調を緩めて、聞こえてくる会話に集中してしまう。
サッカー部の先輩、として後輩に接する優先輩に、なんとなく私と過ごしてるときとはまた違った頼もしさを感じる。
「なんで先輩、部活やめちゃったんすか? プロ目指してたんすよね?」
「お、お前、それは聞くなって……!」
そんな話題が聞こえてきて、思わず足を止める。
どういうこと? やめた? 先輩は部活を引退したんじゃ……。
聞いちゃいけない。聞かないほうがいい。妙な焦りが襲う。
でも好奇心ばかりは止めることができなくて。
「──現実見たんだよ。プロサッカー選手なんて俺がなれるわけないだろ?」
心做しか少しだけ冷めた声が、鼓膜を揺らした。
「嘘……」
誰にも知られず、そんなつぶやきが空気に溶けて。
ぐちゃぐちゃに混ざりあった感情のまま、その場から駆け出した。
──狭き門だから難しいかもしれないけど、ピアニストになりたい。
そう言った私を応援してくれた先輩は。
心の中で私に、現実見ろ、なんて言ってたのかな。
私にはなれるわけないって思ってたのかな……。
嫌な妄想は始めたら、止まることを知らない。先輩との別れを突きつけられたあとだから、余計に悲観的になっていたのかもしれない。
「はぁ……」
見上げた夜空は、とても暗い。
その日は月のない夜。新月の夜だった。
*
それから一週間、私はなんとなく先輩を避けるようにして音楽室に通うのをやめた。
──でも、私は忘れていた。
一週間が過ぎた、その日から始まる冬休み。
たとえそれが終わっても、一月から学校へは来なくなる3年生にはもう会えないんだってこと。
そうして私の魔法の放課後はあっけなく終わったのだ。