「なれるかわかんないけどな。……でも絶対なる。ならなきゃいけないんだ」


 いつもの優しい眼差しが、決意に満ちたものに変わっていた。


 先輩の瞳の奥に宿る炎が、静かに揺れる。


「なれますよ。絶対に」


 だから私も、その瞳を強く見つめて言い切ることができた。


 短い間ではあったけど、優先輩と過ごして。


 先輩ならきっとやり遂げるんだろう、とわかる。


「……ありがとな。それで、実は目指してる大学が海外なんだ」


「……え? 海外ですか?」


「ちょうど親の海外赴任も決まって、家族全員で引っ越すことになったからちょうど良くて。自分の勉強したいこととか学費のこととか色々含めて、いい大学を見つけたから」


 思わず言葉に詰まる。


 なんと言っていいのかわからなかった。


 先輩はあともう少しで卒業。受験勉強をしている姿は、たくさん見てきたはずなのに全然実感は湧いていなくて。


 唐突に〝別れ〟を突きつけられた気がした。


 さっきまで心からの応援を送っていた自分の感情に、黒いものが交じる。


「いつも緋依と一緒に受験に向けて頑張ってるし、知ってもらいたかった。今日は急に誘ってごめんな」


「……いえ」


 そっけない言葉しか返せなかったのは、無性に泣きたかったから。


 少し気を抜けば、涙が溢れて、こぼれそうだったから。


 ただ放課後に使う部屋が同じなだけの関係。


 そもそも先輩が卒業してからも会うような親しい関係ではなかったはずなのに。


 会えないとわかったら、こんなにも心が苦しい。


「伽々里せんぱーい!」


 突然、微妙に気まずい空気を破るように、先輩を呼ぶ声が響いたのは、そんな時だった。


 同時に、隣にいた先輩が勢いよく振り返る。


 私も遅れて後ろを向けば、走ってくる数人の男子が見えた。うちのクラスのサッカー部だ。


 慌てて「じゃあ、また明日」と先輩に声をかけて、何事も無かったようにその場を離れる。


 危ない。変な誤解を生むとこだった。