ひとりで昇降口を出ると、何グループかの生徒たちが、固まって話しているのが目に入る。


 ちょうど鉢合わせそうになった先輩にアイコンタクトを送ってから、とりあえず正門の外まで出た。


「ごめんな、遅くなって。ちょっと友達に捕まっちゃって」


 しばらくしてやってきた先輩は、申し訳なさそうに謝った。


 先輩はみんなから好かれるし、友だちも多い。


「さすがですね」


「ん?」


「先輩、コミュ力のお化けだから」


「低いってこと?」


「高すぎるってことです」


 人と関わりを断っていたと言っても過言ではなかった私の心にそっと踏み込んで、救ってくれたように。


 きっと先輩に救われた人がたくさんいる。そうやって、先輩は人を惹きつける。


「緋依だって高いよ」


「本気で言ってます? こんな友達居ない人間に向かって」


「関わろうとしなかっただけだろ? 俺、緋依と喋るの楽しいし」


 そう言って笑う先輩に、自分の心にやわらかく光が差し込んだのを感じる。


 魔法だ。また魔法をかけられてしまった。


 気恥しさと嬉しさで何も言えずにいると、生まれるしばしの沈黙。


 そのままふたりで黙って駅に向かって足を進めていたとき、ふと先輩が口を開いた。


「俺さ、医学部目指してるんだ」


「医学部……って、あの医学部ですか!?」


「たぶん緋依が今考えてる医学部で合ってるよ」


 私の驚き方のリアクションが大きかったせいか、先輩は軽く笑う。


「医者になりたいと思ってる」


「お医者さん……」


 お医者さんになりたい、なんてきっと生半可な気持ちでは思えないはず。


 大した知識もないけれど、医学部が相当頭のいい学部であることは聞いたことがある。