「ごめ……」
「違うって。おれの話し方のせいで何か不安に思ったなら、謝らなきゃいけないのは榊じゃなくて、おれだから」
わたしが口にしようとしたごめんの言葉を、時瀬くんがきっぱりとした声音で遮ってくる。
時瀬くんの表情はぼんやりとしているけれど、わたしに向けられた彼の眼差しの強さはよくわかった。
「で、なんで離れようとしたの?」
時瀬くんが、わたしの顔を覗き込むようにして訊ねてくる。
わたしが人の顔がうまく認識できないと知ってから、時瀬くんは、わたしの小さな反応も見逃さないように気にかけてくれる。
表情で気持ちが読み取れにくい分、言葉でちゃんと確認しようとしてくれる。時瀬くんの、そういう優しいところがすごく好きだ。
「急に手をぎゅってしたこと、嫌がられたんじゃないかと思って……」
一瞬不安になった気持ちをボソッと白状すると、「は? 何言ってんの?」と時瀬くんの呆れたような声が返ってきた。