それと同時に、わたしは自分がなっちゃん以外の人の顔もきちんと認識できていないことに気が付いてしまった。
学校の先生や友達だけじゃない。両親や妹の顔も生まれたときから知っていてわかっているはずなのに、家の外で家族の顔を頭に思い浮かべようとしても、その顔をうまく思い描けない。
楕円の輪郭の中に目と鼻と口が付いていることや、それぞれのパーツの動きは意識すれば読み取れる。でも全体を捉えようとすると、誰の顔も全部みんなぼんやりとする。先生も友達も家族も、みんな同じに見えるのだ。
いつからそうだったのだろう。どうして今まで気付かなかったんだろう。
考えてみれば、わたしが小さな頃から個人を識別するときに無意識に見ていたポイントは、髪型や服装や背格好で、顔ではなかった。
自分の見え方が人と違うかもしれない……。不安になって調べたら、程度の差は様々だが、世の中には人の顔がなかなか覚えられなかったり、うまく識別できない人がある一定数いることがわかった。
事故で顔が認識できなくなる人もいるし、わたしみたいに先天的に認識できない人もいる。
なっちゃんとの待ち合わせでの失敗と交友関係の破綻は、そのことを知る大きなキッカケになった。そしてわたしの胸に、一生忘れられない苦しさと切なさを植え付けた。



