「そういうの、たまにあるよね。わたし、声かけたことはないけど、人違いで声をかけられたことはあるよ」

 そう話すなっちゃんの髪型は普段とは違っていて、左右にわけた髪をゆるく三つ編みにしていた。

 笑い声とともに揺れる、なっちゃんの三つ編みの毛先。それを見つめるわたしの胸に、一抹の不安が過ぎる。

 駅についたとき、三つ編みをした女の子の姿はたしかにわたしの視界には入っていた。それなのに、わたしは、その子がなっちゃんである可能性を考えもしなかったのだ。

 普段のなっちゃんの髪型とは違うから、わたしの意識は三つ編みの女の子のほうへは向かなかった。

 学校にいるときと遊びに行くときで髪型が違うのなんて、少し考えてみれば当たり前にあり得ることなのに。どうして……。自分でも、そのワケがわからなかった。

 そのあと電車に乗って、目的地の繁華街に着いてからも、わたしの失敗は続いた。

 お昼ご飯を食べるために入ったマックで、席取りをしてくれたなっちゃんのことが見つけられずに店内の同じ場所を何度もうろうろと彷徨った。

 服屋さんの店内で、隣の棚の服を見ているなっちゃんがどこにいるかわからなくなって探し回った。

 二種類の服を試着したなっちゃんに「どっちが似合うかな?」と聞かれたときは、マネキンがコーディネートされているようにしか見えなくて、うまく感想を伝えられなかった。

 わたしがずっとそんな感じだったせいか、なっちゃんは当初の予定よりもだいぶ早くに「そろそろ帰ろっか」と、切り出してきた。