ある日の昼休み。部活で描く次作の下絵をなんとなく考えていると、なっちゃんが話しかけてきた。
「柚乃ちゃんは風景画が好きなの?」
「うん、昔から風景ばっかり描いてるかも」
「そうなんだ」
近くの席から椅子を引っ張ってきて座ったなっちゃんが、スケッチブックに鉛筆を走らせるわたしの手元をじっと見てくる。
なっちゃんは、いつもそうだった。わたしが絵を描いていると、ものすごく興味深そうに横から覗き込んでくる。
「なっちゃんも何か描く?」
いつも見ているだけでは退屈かと思って、スケッチブックのページをちぎって渡そうとしたら、なっちゃんが顔の前で手を振った。
「いいよ。わたし、下手だもん」
「でも、いつも一生懸命見てくれてるから……」
「うん。わたし、柚乃ちゃんの絵を見てるのが好きなんだよね」
そう言ったなっちゃんの口角の上がり具合は、とても好意的に見えた。