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「人物画の課題のモデルになってあげてほしいんだ」
カンニングの反省文を書く代わりに吉原先生に頼まれたのは、クラスメートの榊 柚乃の絵のモデルだった。
うちの高校では、一、二年のあいだは芸術科目の選択が必須になっていて、音楽か美術の二択。
榊もおれも、その二択の中から美術を選んでいる。
のんびりとした吉原先生の美術の授業は結構緩くて、絵の上手い下手は関係なく、テーマにさえ沿っていれば、割と自由に絵を描かせてくれる。
そんな吉原先生が、高二の一学期の前半に生徒たちに与えたテーマは人物画だった。
美術室にある石膏をデッサンしたり、二人組になってお互いに相手の顔を描き合うというような課題が順に出されたのだが、どうやら榊は高二になって初回の美術の授業に出たあと、二回目以降は全く参加していないらしい。
なぜ榊が授業に出てこなくなったのか、訊いてみても彼女が何も言わないから、吉原先生にもその理由がわからないそうだ。
その話を聞いて不思議に思った。
榊とおれは高一のときも同じクラスで、美術の授業を一緒に受けていたのだが、彼女の絵は人並み以上に上手い。
授業中も吉原先生からよく褒められているし、噂によると、榊は美術部にも所属しているらしい。榊にとって、美術は決して嫌いな授業じゃないはずだ。
おれの記憶では、榊はほとんど毎日学校に来ていたはずだし、得意そうな美術の授業だけをサボる理由がわからない。
そもそも榊 柚乃という女子は、おとなしくて真面目そうで、授業をサボるようなタイプに見えない。
まぁ、見た目がそうってだけで、榊が腹の内で何を考えてるのかなんてわからないんだけど。