「ありがとう……」

 うつむいた榊の髪の隙間から覗く耳の先は、今日イチで真っ赤になっていて。その反応に浮かれたおれは、ちょっと調子にのってしまった。

「さらによければなんだけど……、おれの彼女になってもらえませんか」

 心臓が暴れて飛び出してきそうな胸を抑えて思いきって伝えたら、真っ赤な顔を上げた榊が心底驚いたように目を見開いた。

「でも、わたし……。時瀬くんに迷惑かけてばっかりなのに……」

 こんな話をしていても、榊とおれの視線はもどかしいくらいに微妙に交わらない。目線や表情で認識してもらえらない分、言葉ではっきりと口にしなければおれの本気は伝わらない。

「榊のこと迷惑なんて思ったことないし。好きな子にかけられる迷惑なら、おれは嬉しいけど。だから、今の告白の返事は、そういう基準で考えないで」

 真顔で伝えたら、榊が溢れそうになった笑いを堪えるように左手の甲を口元にあてた。

「やっぱり、時瀬くんてモテそうだよね……」

「だから、そんなのないって」

 だって、おれが今、この瞬間に全力でモテたいのは榊だし。

 むっとした声で言い返すと、榊がついに、ふふっと笑い声を溢した。

「今日は、始まりから全部想定外。だけど……、全部嬉しい」

 口元から手を離した榊が、ふわっと無防備に、幸せそうに笑う。その笑顔が今日イチでおれの胸をぐっと締め付けてきて。

 もう、どうしようもなく、この子が好きだって思った。