「時瀬くん、上履きのサイズ合ってなくていつも踵踏んでるでしょ。踏み潰されすぎてひしゃげてる上履きも、時瀬くんだって認識するのに役立ってるよ」
「へえ。じゃあ、おれ、この先も一生、上履きの踵は踏み潰すして生きていくわ」
真顔で言うと、榊が一瞬目を見開いて、そのあと「え、あ、うん……」と挙動不審気味に頷く。
「それでも、おれが声かけたときにちょっとビビったり、語尾上がりに名前を呼んで確かめてくるのは、今教えてくれた基準だけじゃおれって確証が持てないから?」
「そう、だね。それでも、100%時瀬くんだって自信はない。同じような背格好の人が同じような髪型をして踵を踏ん付けてたら、時瀬くんと思っちゃうかもしれない」
「たしかに、今榊がおれを認識してくれてる基準って、ちょっと曖昧だもんな。上履きは一生踵踏んどけばいいとしても、髪型は切ったりしたら微妙に変わっちゃうし……」
何かもっと、いつもある絶対的な目印みたいなものがあれば榊に認識されやすくなるのかな……。
しばらく考えて、ハッとした。
「榊、ちょっと今から買い物付き合って」
「うん。いいけど……」
榊が頷くまでの数秒が待ちきれず、おれの左袖を掴んでいる彼女の手を上から包んで引っ張る。