君だけのアオイロ


「謝んないでいいよ。今みたいに楽しめないことはちゃんと教えて。そのほうが、おれも嬉しいし」

「ありがとう……」

 ボソッとそう答えた榊が、ほんのりと頬を染めて横目におれを見上げてくる。

 物言いたげな視線に「ん?」と首を傾げたら、榊が足元に視線を落としてゆるゆると首を振った。


「いや、なんか……。時瀬くんてモテそうだなって思って」

「は? なんで? 全然、そんなんねーし。目付き悪くて怖そうって言われるのはしょっちゅうだけど」

 優しいとか、モテそうとか。どうして榊は、今まであんまり言われたことのないような言葉でおれを持ち上げてくるんだろう。


 おれの焦った声を聞いて、榊は下を向いてクスクス笑っていた。

 顔の区別がつかなくても、赤くなってるとかそういうのはわかんのかな。もしわかるなら、今、最高潮に顔が火照ってるから、見られたら恥ずかしい。

 榊から顔を背けると、しばらく周囲の人の流れに視線を向けて歩く。顔の火照りと気持ちを落ち着いてから、ふと視線を戻すと、隣から榊の姿が消えていてヒヤリとした。