君だけのアオイロ


「ご、ごめん、時瀬くん。わたし、なんか嫌なこと言ったかな……?」

「なんで?」

「わたし、顔全体はわからないから、人と話すときに口とか眉とかパーツの動きを見て会話を合わせるっていうか、空気を読むように気を付けてるんだけど……。今の時瀬くんみたいに、眉がキュッと中央に寄ってるときは、だいたいみんな、怒ってるか、機嫌悪い。だから、わたしの話で不快にさせてたなら、ごめんなさい……」

「別に、怒ってもないし、不機嫌でもないよ」

「そう……」

 おれが眉間を緩めて否定しても、榊はまだ少し不安そうだった。

「考えごとしてて無意識に眉間が寄っちゃっただけだから。榊の言ったことが不快だったとかではない」

 榊に意外なことを言われてたのが嬉しくて、感情の揺れを表に出さないようにセーブしようとしただけだ。それを言葉にして説明するのはさすがにキモい気がするから、言わないけど。

 おれがもう一度否定すると、榊が視線をあげて、ほっとしたように頬を緩めた。今日初めて見せてくれた榊の柔らかな表情に、おれも安堵する。

 ふと手元を見ると、おれのアイス・ラテは氷が溶けてかなり薄まっている。

 プラカップに四分の一ほど残っていたそれをストローで吸い上げて榊のほうを見ると、彼女のフラペチーノも半分以上減っていた。