君だけのアオイロ


「あいつ、そういう声の掛け方してきたんだな」

「そういう……?」

 もし榊が人の顔を識別できないんだとしたら、悪いのは榊じゃなくて「お待たせ」なんて、まぎらわしい声のかけ方をしたあの男だ。

 それなのに、おれは榊に「スニーカーの色で遊ぶ男を選ぶのか?」なんて、ひどい言い方をした。最低だ。

「何も知らずに、榊を非難するようなことばっかり言ってごめん」

 イラついて、榊にひどい言葉をたくさん浴びせてしまった数十分前の自分に反省しかない。

 頭を下げると、榊は「ううん、いいの」と、顔の前で手を左右に振った。

「でもさ、顔の区別がつかなくて、学校では不自由ないの?」

「わたし、あんまり社交的な方ではないし、学校では特定の友達や先生としか関わらないから。その人たちのことは、規定服の着方とか、髪型とか、話し方とか、あとは仕草のクセとかで区別するようにしてて、普段の生活ではそこまで困らないよ」

「そっか」

「困るのは、文化祭とか体育祭でクラスメートがみんなお揃いのTシャツを着たり、髪型を普段と変えちゃったりするとき。そういうときは、普段目印にしてるものがなくなっちゃうからちょっと困る。あ、高一のときに焼きそば屋の店番をしたときも大変だったな。お客さんの顔の区別が全然つかなくて……。時瀬くんにも迷惑かけたよね」

 榊が申し訳なさそうに苦笑いする。