君だけのアオイロ


 高一の文化祭のとき、焼きそば屋の接客が全然ダメだったのも。絵は上手いのに、美術の授業をサボっちゃうくらい人物画が苦手なのも。

 話しかける度に過剰に驚いて、確かめるようにおれの名前を語尾上がりで呼ぶのも。待ち合わせ場所で、おれと髪色や履いていた靴の色が似ていた男について行きそうになってたのも。

 もっとほかにも、おれが違和感を感じてモヤモヤしていたこと全部。

「本当はね、待ち合わせってすごく苦手なんだ。特に、学校の友達と学校以外の場所で私服姿で会うっていうのが、わたしには結構ハードルが高いの。私服になると、制服着てるときとガラッと雰囲気が変わるでしょ。学校でその人を判断するときの基準にしているものがなくなると、もう全然わからなくなるし。これまでにも、うまく待ち合わせできなくて失敗してる……」

「だから、武下に誘われたとき、最初はあんまり乗り気じゃなかったんだ?」

「うん。時瀬くんとは何度か話してるし、学校以外の場所で会っても雰囲気でわかるかなって思ったんだけど……。誰かと待ち合わせするのなんてひさしぶりで、緊張してたみたい。わたし、待っている間もずっと茶色の髪と赤いスニーカーの男の人を探すことばっかり考えてたから、赤いスニーカーの人に『お待たせ、行こっか』って声かけられて、時瀬くんだって疑いもしなかった。結局、時瀬くんに迷惑かけちゃったし、来ないほうがよかったよね」

 榊が、目を伏せてハハッと笑う。榊の話を聞いて、おれは少しムカついた。