「時瀬くんの性格だと、こんな小さな紙に綺麗な字で細かく英単語を書き込むのには相当時間がかかりそうだよね。君、いつも授業で絵を描くとき、紙いっぱいに、迷いなくバーッと大雑把に色をのせるでしょう?」
吉原先生がそう言って顔をあげる。
何が言いたいのかと思って怪訝に眉を寄せたら、吉原先生がおれにカンニングメモの入った消しゴムを差し出してきた。その手の指に少し、青い絵の具が付いている。
「まぁ、僕が直接見たわけではないからなんとも言えないんだけど。これからは気を付けて」
吉原先生が、にこっと笑う。
何かもっと、それらしい注意を受けるのかと思っていたおれは、吉原先生の態度にすっかり拍子抜けしてしまった。
「え、それだけすか? 菊池は反省文書けって……」
「菊池先生、ね。そんな生産性のないことやったって意味ないよ」
吉原先生がふっと笑って、開いて差し出したおれの手の上に消しゴムを落とす。
よくわからないなりに理解できたことがひとつ。
どうやら吉原先生は、おれのカンニングを疑っていないらしい。