人目も憚らず、ぼろぼろと泣く榊のことを、通行人たちが奇異な目で見ている。その眼差しは、榊だけでなくおれにも向けられていた。

 (はた)から見る人の目には、目付きの悪い不良が気弱そうな女の子を虐めているように映っているのかもしれない。

 小さく舌打ちをすると、おれは仕方なく、ぼろぼろ泣いている榊の顔に服の袖を押し付けた。

「勝手に決めつけて悪かった。なにか事情があるなら、ちゃんと話聞くから。とりあえず、移動しよ」

 榊の目の周りを袖で乱暴にごしごしと擦ると、彼女が驚いた顔をして、ズビッと鼻を啜る。

「時瀬くん、服……」

「ああ、ハンカチとか持ってねーし」

「じゃなくて、濡れちゃう……」

「仕方ねーじゃん。榊が急にぴーぴー泣き出すから」

「ごめん……。でも、ありがとう」

 泣き顔をあげた榊が、ズビッと鼻を鳴らしながら笑おうとする。チグハグな榊の表情に、なぜか胸がぎゅっと狭まった。

 どうしてだろう。イラつかされるし、わけわかんないことばっかりなのに、榊のことをほっとけない。

「喉渇かね?」

「少し……」

「行こ」

 誘いかけると、榊はコクッと頷いて、おれに着いてきた。

 とりあえず、涙は治まったらしい。そのことに、ほっとした。