「あの、時瀬くん。他のみんなとの待ち合わせは……?」

 おれに引っ張られるままに着いてきた榊が、背中から声をかけてくる。困惑しているみたいな彼女の声が、無性におれをイラつかせた。

「さっきのふたり、榊の知り合いじゃないんだよな? 知らないやつにふらふら着いて行こうとしてたくせに、他のみんなとの待ち合わせもなにもないだろ」

 立ち止まって言葉をぶつけると、榊がビクッと怯えたように肩を揺らす。

「さっき榊が言ってた赤が目印って、スニーカーの色のことだよな。お前は、スニーカーの色で遊ぶ男選んでんの? おれらとの約束より、あいつらのほうが気になった? お前ってほんとうに何考えてんのか全然わかんねー」

 イライラしながら前髪をグシャリと掻いて、ため息を吐く。

 榊はブラウスのお腹の辺りの布をぎゅっと手でつかむと、怯えるようにカタカタと小刻みに肩を震わせていた。

 言い方がきつすぎたか。でも、今回ばかりは榊だって悪いと思う。

 学校で武下に遊びに誘われたときはものすごく渋ってたくせに、待ち合わせ場所でナンパしてきた知らない男には着いて行こうとするなんて、おれには榊の判断基準が全く理解できない。

 さっきの男たちの顔が好みだったのか……? 

 それとも、年上好きとか。いずれにしても、腹が立つ。