「その子、俺たちが声かけたら、ふつうについてこようとしてたよ。気を付けなね、彼氏くん」

 男たちは、おれたちを揶揄うように顔の半分をニヤつかせていた。

 雰囲気的に、ふたりとも大学生っぽい。だけどなんとなく、柄が悪そうだ。

「それとも、今日は彼氏くんとのデートはキャンセルして俺らと遊ぶ?」

 ふたりのうちのひとりが、榊のほうに一歩近付いてしつこく絡んでくる。

 その男の頭は色落ちした汚めの茶髪で、スポーツブランドのスニーカーを履いていた。おれのとよく似てるけど微妙にデザインが違う。色は、赤だ。

 赤──。その鮮やかな色が目に飛び込んできた瞬間、榊が言ってた「間違えた」や「赤が目印」という意味が少しだけわかったような気がした。

「触らないでください」

 榊の肩に気安く触ろうとしている、茶髪に赤のスニーカーの男の手を叩き落とす。

 男が「いてぇな」と、睨んで舌打ちしてきたけど、それを無視して、おれは榊の腕を引っ張った。

「行くぞ」

 自分で思っているよりも、低くてぶっきらぼうな声が出た。少しも取り繕えていない、怒っているときの声だった。

 少しでも早くふたり組の男たちから離れたくて、榊の腕をグイグイ引っ張る。

 怒りに任せて、早足で歩いているうちに、武下たちと待ち合わせていた液晶モニターの前からはどんどん遠ざかっていった。