「おれの消しゴムじゃありません」
おれは最後の最後まで女性教師に主張し続けたけど、その主張は認められずに、証拠の消しゴムとともに担任の吉原先生に引き渡されてしまった。
「菊池先生にも言いましたけど、おれじゃありません」
菊池っていうのは、おれのことをカンニング犯に仕立て上げた国語教師だ。
あいつの授業なんて、今後一切聞きたくない。耳栓して、最初から最後まで居眠りしてやりたい。
腹立たしさに任せて菊池からの評価が余計に下がりそうなことを考えていると、吉原先生が手に持っていた消しゴムケースからカンニングメモを引っ張り出した。
「これ、よく見ると、小さな紙に細かく綺麗な字でものすごくたくさん書き込んであるよね」
カンニングメモをしばらくじーっと見た吉原先生が、感心したようにつぶやく。
高二でおれのクラスの担任になった吉原は、三十代前半でのんびりとした性格の男の先生だ。
おれも選択科目の美術の授業でお世話になっているけれど、吉原先生が怒ってるところや焦っているところはあまり見たことがない。
授業中に生徒に説明するときも、個別に誰かと会話するときも優しい口調でゆっくり話す。
メモを隅々まで眺めた吉原先生が、それをもとの通りに丁寧に折り畳んで、消しゴムケースに押し込む。