「あーお。おれら、先に帰ったほうがいい感じ?」

 榊の笑顔を見つめているおれの耳に武下の声が届く。

 振り向くと、教室のドアに凭れてニヤニヤしている武下と西沢と目が合って。おれは今度こそ、榊から離れてふたりの元に急いだ。

「榊さんとふたりで何しゃべってたんだよ」

「あのまま、ふたりで帰っちゃえばよかったんじゃね」

 おれの右と左に並んだ武下と西沢が、肩に手をのせて、顔を寄せながらそれぞれにからかってくる。

「別に、そんなんじゃねーし」

 ムッと眉根を寄せて、両肩にのっかる武下と西沢の手を振り払う。

 じゃあ、何なんだって言われたらうまく説明できないけど。

 おれが榊のことを見てしまうのは、最初に話したときから今までずっと、彼女の言動が他のやつとは少し違ってるからだと思う。

 おれに無関心かと思えば無防備に笑いかけてきたり、不安だって口にしながら遊ぶ約束を受け入れてくれたり、珍しくもない赤のスニーカーを待ち合わせの目印に指定してきたり。

 わからないことが多いから、モヤモヤして少し気になる。ただ、それだけだ。