「ううん、違うの。自分で履きたいとかではなくて、時瀬くんに履いてきてほしい。待ち合わせのとき、わかりやすいから」
「目印にってこと? 人いっぱいいるところで待ち合わせると、友達がどこにいるか一瞬わかんないときあるもんな」
「うん、そうなの!」
おれが何気なく言った言葉に、榊が過剰反応気味に大きく頷く。そこまで強く共感されるような話はしてないはずだけど、榊の頬は興奮したみたいにほんのり赤くなっていて少し可愛かった。
「赤のスニーカーね。覚えとく」
「ありがとう。そうしてくれたら、きっと間違えないと思うんだ」
間違えないって、なんか変な言い方するよな。
ふっと笑うと、榊がおれの目線より少し上を見る。微妙に交わらない榊との視線。彼女の言動は、だいたいがおれにとっては不可解でもどかしい。
だけど重なりそうで重ならない視線の先で榊に笑いかけられると、キュッと胸が狭まって、不可解さももどかしさも、その痛みに紛れてしまう。