スマホでおれのラインのQRコードを読み取った榊が「よろしくお願いします」とペコッと頭を下げている犬のスタンプを送ってくる。

 スタンプの犬の黒目がちの大きな瞳が榊の雰囲気に重なって見えて、ふと口元が緩んだ。

 にやけそうになる口元を手のひらで押さえながら榊の連絡先を登録していると、彼女が「あと、一個お願いがあって……」と、もごもご言ってくる。

「お願い?」

「うん、あのね。土曜日なんだけど、この前時瀬くんと一緒にマックに寄った日に履いてたのと同じスニーカーで来てもらえないかな」

「赤のやつ?」

 榊が「目立っていい」と褒めていたスポーツブランドの深い赤色のスニーカー。それを思い浮かべて首を傾げると、榊が両手で持ったスマホをいじいじと触りながらコクリと頷いた。


「いいけど。そんな気に入ったなら、調べて送ろうか? レディースでも似たやつあるんじゃねーかな。ショッピングモールぶらついてるときに、靴屋でふつうに見つけたやつだし。特別珍しいやつじゃないよ」

 そのままスマホでネット検索しようとすると、榊がプルプルと小さく頭を左右に振った。