一瞬言葉を発するのを躊躇うと、その隙を突いて、武下がしゃしゃり出てきた。
「他なんて、いないいない。蒼生、高校入ってからカノジョいたことないし。見かけほどモテないから」
榊のことを知るまでは、カノジョの友達をおれに紹介しようとしていたくせに。見かけほどモテないとか、失礼だ。
むっと唇を真横に結ぶおれの斜め後ろで西沢までがプハッと噴き出すから、不快感極まりない。
「悪かったな、モテなくて。そんなモテないやつに付き合わされたら榊が迷惑だろ」
ヤケクソ気味にそう言って、武下の肩を引っ張る。
いつまでもしつこくからかいやがって、覚えてろよ。
ヘラヘラ笑う武下を睨みあげたとき、榊がボソリと何か言った。
「……ではないよ」
「ん? なに、榊さん」
「わたしは迷惑ではないよ」
小さな声ではあったけど、榊がはっきりとそう言ったから、不覚にもドキッとした。
「え」と小さく口を動かすおれの横で、「そうなんだ」と武下が前のめりに身を乗り出す。