おれが榊のことを好きだと思っている武下たちは、おせっかいにも彼女を交えたグループデートをセッティングしようと目論んでいるのだ。おれのため……というより、おれをからかって楽しむために。
「なあ、もうやめろ。榊、ガチで困ってるから」
榊の困り顔を見ていられなくなって、武下と西沢の間を割って前に出る。
「なんだよー。蒼生のために誘ってやってんじゃん」
「うっさい、余計なこと言うな」
低い声でそう言って武下を横目で睨んで牽制する。すると、いったん足元に視線を落としてから顔を上げた榊が「時瀬くん?」と語尾上がりに、確認するようにおれの名前を呼んだ。
さっきからずっと武下や西沢の後ろに立っていたのに、榊はたった今おれの存在に気付いたらしい。驚いた顔で、パチパチとまばたきをしている。
武下たちの後ろに遠慮がちに立っていたおれは、榊の視界にも入っていなかったのだろう。
おれがどんなに気にかけたって、榊はおれに全く興味を持っていない。わかってはいるけど、やっぱり少しガッカリする。
「ごめんな、榊。こいつら、ノリでちょっとふざけてるだけだから。ほら、行くぞ」
苦笑いで傷心を隠して、武下と西沢を榊から引き離す。
おれに促されて西沢は案外あっさりと引いたけど、武下のほうはそうはいかなかった。