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 その日の放課後。武下と西沢は、嫌がるおれを無理やり榊の元へと連行した。

 ホームルームが終わると同時に、柄が悪い男子たちに包囲された榊が、怯えた顔でシロクマのキーホルダーがついたカバンを抱きしめる。

「ごめんね、帰ろうとしてるところ引き止めて。榊さんて、今週の土曜日何か予定ある?」

「特にないですけど……。なんでですか?」

「予定ないならさ、俺らと一緒に遊びに行かない?」 

 武下に胡散臭い笑顔で誘いかけられた榊が、警戒するように一歩後ずさった。

 西沢が、「そんなビビんなくてもいいのに」と笑うと、榊はますます警戒して表情をこわばらせる。

 ビビんなくてもいいって言われたって、今まで喋ったこともない男からいきなり遊びに誘われたら、驚くに決まってる。それに、おれと同じで身長178センチほどある武下と西沢に並んで立たれたら威圧感も半端ない。

 ふたりに見下ろされている榊は、まるでオオカミに狙われた子羊のようだ。

「どうして、急にわたしに誘いかけてきたんですか。え、っと……」

 眉をハの字にした榊が、困ったように武下と西沢のことを交互に見る。その表情が、可哀想なくらいに不安げだ。

 榊の反応を見ていると、ものすごく居た堪れない気持ちになってくる。こんなふうに武下や西沢が悪ノリし始めたのは、おれのせいだから。