「なあ、蒼生が俺の彼女の友達からの誘いを断るのって、好きな子いるから?」

「は?」

 思わず声をうわずらせたおれの肩越しに武下が見ているのは、榊のほうだ。

「別に違――」
「蒼生の好きな子って、もしかして江藤 陽菜?」

 武下が、おれに鋭い眼差しを向けている江藤 陽菜をこっそりと指さす。それがあまりに検討違いだったから、一瞬生じた焦りはすぐに消えた。

「違う」

「でもさ、最近よくふたりで見つめ合ってない?」

「ない」

 見つめ合ってるんじゃなくて、榊を視界に入れようとすると睨まれるのだ。

「江藤 陽菜、ちっさくて可愛いって一部の男子に人気らしいよ。マジでないの?」

「ない」

 そもそも、おれは江藤 陽菜の名前を知ってるだけで、話したこともないし、どんなやつなのかも知らない。

「なんだよ、つまんねーな」

 冷静な声で静かに否定したら、武下が不満げに口を尖らせた。