翌朝。教室に向かって廊下を歩いていると、数メートル先を歩く女子のカバンでふわふわしたシロクマのぬいぐるみが揺れていた。

 華奢な細い肩の上で、ダークブラウンの髪の毛の先がところどころ左右に外側に跳ねている。頭を下げて、うつむき加減に歩いているのは、榊 柚乃だった。

 カバンにつけた目印と後ろ姿だけで彼女を判別できてしまった自分に、苦笑いが漏れる。

 これまでのおれだったら何も言わずに榊の横を素通りしてるところだけど。なぜか後ろ姿を見ただけで、彼女の無防備で飾り気のない笑顔が脳裏に蘇ってくる。

 なんだかなー。

 顔を顰めてクシャリと前髪を掻くと、小走りで榊の背中をいかける。

「おはよう」

 隣に並んでから声をかけると、榊がビクリと肩を揺らしながら振り向いた。

 目を最大限にまでぐっと見開いた榊の顔は、まるで知らない人に話しかけられたときのようで。またかよ、と密かに傷付いた。

 美術室で後ろから呼びかけたときもそうだし、マックで横からトレーを持って声をかけたときもそうだった。

 榊は、おれが話しかけると毎回、過剰にビビる。