おれは榊に嫌われているのか、そうじゃないのか。彼女の反応は分単位でころころと変わるから、わけがわからない。

 そんな彼女の気まぐれに、いちいちショックを受けたり、ほっとしたり、おれも同じように分単位で心を揺らされている。


「榊って、なんか変だよな」

 トレーの上のポテトを摘まんで口に入れながらボソリとつぶやくと、榊がぎょっとしたように大きく目を見開いた。

「変って、どこが?」

 榊が、少し強張った声で訊いてくる。

 おれの指摘に対して、怒ったり笑ったりするんじゃなくて、ちょっと動揺して焦るあたり、榊にも自分が変な自覚があるのかもしれない。それを隠そうとしてるんだろうが、全く隠せてない。

「うーん、おれを探すのに、カバンにつけたぬいぐるみとか、履いてるスニーカーの色を目印にしてるところとか?」

「わたし、不自然だった?」

「そうじゃなくて、なんか榊の感覚って変わってるよなーって思って」

「そんなこと初めて言われたけど……」

 おれの言葉に、榊がきょとんと首を傾げた。

「おれさ、昔から、髪色の明るさとか目付きの悪さで目立つんだよ。今日のテストでカンニングの疑いかけられたのだって、おれの見た目がカンニングしそうなやつだって菊池に判断されたからだし」

「そうなの? 私、あのとき、どうして菊池先生は理由も聞かずに時瀬くんを犯人にしたんだろうって思ってた」

 榊の言葉に、なぜかきゅっと胸が詰まった。

 菊池に真っ先にカンニング容疑をかけられたとき、教室中が敵に思えた。だけど、榊みたいにちゃんと疑問に思ってくれるやつがいたんだと思うと救われる気分になる。

「やっぱり榊って感覚変わってるよ。おれの特徴って誰がどう見ても絶対に茶髪とつり目で、問題児顔じゃん。だから、菊池もおれを疑ったんだよ。それなのに榊は、問題児顔のおれの見た目よりも、履いてるスニーカーが目立つとか言うんだもん。おれに対してそんなこと言うやつ、これまでもこれからも、世界中で榊だけな気がする」

 スニーカーを指さして無邪気に笑いかけてきた榊の顔を思いだしながら笑うと、彼女がおれを見上げてパチパチと目を瞬かせた。