「ああ、でも、こっちを目印にしてもよかったかも」
「こっち?」
「うん。時瀬くんのそのスニーカー、目立っていいね」
榊が、おれの履いているスポーツブランドの赤いスニーカーを指さして、にこっと笑いかけてくる。
「え、これ?」
玄関に出してたものを適当に履いてきただけだが、白カーディガンに規定服の黒ズボンを着たおれの足元で、深い赤色のスニーカーは割と目立っている。
だけど、スニーカーの色を目印にしておれのことを探そうとするなんて。榊は少し感覚が変わってる。
彼女のことを今までとっつきにくいと感じてきたのは、そのせいかもしれない。
「よくわかんねーけど、席、あっち。座ろ」
「うん」
榊からトレーを受け取って、場所取りしている席へと促す。
おれの呼びかけに過剰に反応した榊だったけど、テーブルを挟んで向かい合って座る頃には彼女の顔から怯えの色は消えていた。
嬉しそうに苺シェイクを啜っている榊は、おれに対する警戒心ゼロだ。