「ひゃっ……!」
普通に呼び止めたつもりだったのに、振り向いた榊は目を剥いて、喉をぎゅっと締め付けられたかのような声になりきらない悲鳴をあげた。
榊の怯えたような反応に、結構傷付く。
「階段上がってすぐのところに座ってんのに、呼びかけても全然気付かないから。ていうか、そんな怯えた顔で振り向かなくてもよくない?」
むっとして眉根を寄せたら、榊のほうは困ったように眉をハの字にして、おれの足元にゆっくりと視線を移動させた。
「ごめんなさい。わたし、カバンの目印ばっかり探してて」
「目印?」
そういえば、榊にカバンを預けられたときも目印がどうとか言ってたな。
おれが椅子に置いた榊のカバンには、キーホルダーのシロクマのぬいぐるみがぶら下がっている。
あれを目印に、おれがとってる席を探してたってこと……?
わざわざカバンに付けたキーホルダーを探さなくても、直接おれの姿を探したほうが早くないか?
変なこと言うな、と思っていたら、おれの足元を見ていた榊がクスリと笑った。