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 榊の家は、高校から徒歩十分の場所にあるらしい。電車通学のおれは、学校を出たらすぐに榊とはさよならだ。

「なんかさ、腹減らない?」

 おれとは違う方向に帰って行こうとする榊を呼び止めると、振り向いた彼女が首を傾げる。

「お腹空いてるなら、絵に付き合ってもらったお礼に何かおごろうか」

 適当に流されるかと思ったのに、にこっと笑った榊がそんな提案をされて胸が躍った。

「じゃあ、駅前のマック行く?」

「いいよ」

 榊と駅前まで並んで歩く間、これと言って会話が盛り上がっているわけでもないのに、おれの気持ちはふわふわと少し浮かれていた。

 駅前のマックで、榊は苺のシェイクを、おれはポテトとコーラを頼む。

 お金は自分で払うつもりだったけど、レジ前で財布をだしたおれの横で、榊が「絶対に奢る」と譲らないいので、ここは潔く奢ってもらうことにした。


「おれ、二階に席取っとくわ」

「あ、うん。だったら、わたしのカバンをテーブルに置いといてほしい。目印に」

 スクールバッグを肩から下ろした榊が、そこから財布だけを取り出しておれに預けてくる。