「吉原先生、絵のことなんか言ってた?」
「あぁ、なんか、おれが榊の絵に手を加えたってバレてたな」
「え、そうなの? やり直しかな……」
そうつぶやいた榊は、眉根を寄せてとても渋い顔をしている。
「いや。いい感じだって言ってたから、あのまま成績つけてくれるんじゃない?」
「そっか。吉原先生が適当でよかった。好成績がついたら、時瀬くんのおかげだね」
「それはどうだろ」
「でも、吉原先生、いい感じだって言ってたんでしょ? あの絵、きっと時瀬くんによく似てたんだね」
榊がふいに、にこっと笑う。
さっきおれが美術室の外から声をかけたときは過剰にビビっていたくせに、今おれの前で笑う榊の顔はまるで警戒心ゼロだ。
そんな榊 柚乃の生態が、おれにはまるで理解できない。だけど……。
一瞬だけおれに向けられた笑顔がかわいいなって。そう思って、胸が揺れた。