考えてみれば、苦手だと思ってるやつ相手に、おれがここまで親切に付き合ってやる必要ってあるのか……? いや、もうないだろ。
そもそもカンニング容疑だって、冤罪なんだし。
おれはため息を吐くと、顔の横で並べていたスケッチブックをパタンと閉じた。
「よし、もうこれで提出な。このスケッチブック、おれが吉原先生に渡してくる。榊は椅子とイーゼル片付けといて」
「え、あ、ちょっと……」
榊の戸惑う声を無視して、スケッチブックを美術準備室にいる吉原先生のところに持って行く。
「せんせーい、モデル終わりました」
「お、ありがとう。お疲れさま」
パソコンを開いて作業をしていた吉原先生が、眼鏡を外しながら振り返る。
榊のスケッチブックを渡すと、それをおもむろに開いた吉原先生が、絵の中のおれと実際のおれの顔を見比べて目を細めた。
「うん。いい感じだね。時瀬くんの自画像」
ふわっと呑気に微笑む吉原先生の言葉にドキリとする。
バレてんじゃん。おれが榊の絵に手を加えてるって……。
だけど吉原先生は、やり直せとは言わなかったし、おれが手を加えた理由も訊いてこなかった。
「遅くまで付き合ってくれてありがとう。助かったよ」
そう言って、榊とおれの合作を、にこにこしながら受け入れる。
適当なのか寛大なのかよくわかんないけど、おれのカンニングについても疑ってなかったし、変な先生だ。