「ごめんなさい。わたし、人物画って苦手で……」

 うつむいた榊が、デッサン用の鉛筆を両手でいじいじと触りながら、ひどく申し訳なさそうに白状する。

「え、でも、榊ってすごく絵うまいじゃん。部活だって美術部なんだろ」

「いちおう美術部なんだけど……。褒めてもらうほどうまくないよ。それに得意なのは主に風景画で、他はそうでもないの。特に人物は一番苦手で、自分から絵の題材に選んだことは一度もない。わたしには、似せて描くっていうのができないから」

 細く小さな声で、榊がぽそぽそとおれに説明する。

「絵が描けるやつって、何描かせてもうまいのかなって思ってたけど。そういうわけじゃないんだな」

「なんでも器用にうまく描ける人もいると思う。だけど、わたしは人の顔がうまく再現できないの。せっかくモデルになってもらったのに、ごめんなさい」

 眉尻を下げた榊が、困ったように少し視線を上げる。

 黒目がちな榊のふたつの瞳は、おれの顔を心底申し訳なさそうに見つめていて。嘘や冗談を言っているふうではなかった。