気まぐれにイーゼルの上から榊のスケッチブックを覗き込むと、そこには誰ともしれない見知らぬ男が描かれていて。おれは思わず眉をしかめた。
「誰これ」
スケッチブックに描かれた男の子髪型は、なんとなくおれっぽい。つり眉とか、つり目なところとか、部分的なパーツの特徴を捉えられているところもあるにはある。だけど、スケッチブックに描かれている男は、どう見てもおれじゃない。全くの別人だった。
絵がうまい榊なら、もうちょっとくらいおれに寄せた絵が描けそうなものなのに。
スケッチブックに描かれた男は目や鼻や口、それぞれのパーツが気持ち悪いくらいに変な位置に置かれていて、なんとも歪な顔をしていた。目隠しして福笑いをしたときにできたみたいな、バランスの悪い変な顔だ。
よっぽどおれのことが嫌いなのか、それとも「なるべく早く済ませる」という宣言通りに適当に描いたのかは知らないけど。それにしても、ひとこと言いたい。
「榊さんさ、その顔、少しはおれに似せようと思った?」
「え、っと……」
おれに突っ込まれた榊の顔が、ぱっと赤くなる。それから言葉を詰まらせると、恥ずかしそうにうつむいた。
その反応に、ちょっと拍子抜けする。
おれはてっきり、榊がわざと適当に絵を描いているのだと思っていたから。