昨日の放課後から、びっくりするくらいの距離で近付いて来てくれる柚乃にドキドキしながら、右手でそっと彼女の髪に触れる。

 背を丸めて顔を寄せると、彼女の髪からふわっとフローラルな優しい香りが漂ってきて、胸の奥がきゅっとした。


「においって言うならさ、柚乃さんだって、いつもいい匂いしますよ?」

 シャンプーの香りに混じった、甘くて優しい、思わず抱きしめたくなる香り。するり、と手のひらで柚乃の艶やかな髪を撫でたら、彼女が顔をあげた。


「何言ってるの。蒼生くんのほうがいい匂いだよ」

 柚乃がそう言って、おれの背中に回した両腕に力を入れる。

 大きな瞳で下からじっと見上げられて、おれの理性がちょっとというか、かなり、揺れそうだった。


「いいんだけど……。こんなふうに抱きつくときは、相手がほんとうにおれかどうか、マジでしっかり見定めてからにしてね。心配だから」

 深呼吸みたいな重たいため息を吐くと、柚乃が無邪気にくすくす笑う。

 あーあ。人の気も知らないで。

 ちょっとだけ力を入れて柚乃の肩を抱き寄せると、彼女がおれの腕のなかで安心したように小さく収まった。