「え、顔の区別ついたってこと?」
柚乃の言葉に、右手とともに引っ込めた邪な気持ちが完全に吹き飛ぶ。少し興奮して距離を詰めると、柚乃が首を横に振って、ふふっと笑った。
「ううん、そうじゃないの。でも蒼生くんのことはちゃんとわかった」
「……え?」
「わたしね、ずっと、蒼生くんを見分けるには、ブレスレットが必要不可欠だと思ってた。だけどそうじゃなくて、これはお守りみたいなものだったんだ」
「お守り?」
「そう。99%の確証を100%の自信に変えるためのお守り。あったら心の拠り所になるけど、本当はなくても大丈夫なの」
柚乃が笑って、おれの左手首をブレスレットの上から指でなぞる。くすぐったくて手を退けようとすると、彼女がまたおれの左手をぎゅっと握りしめてきた。
「みんな同じにしか見えないと思ってたし、蒼生くんも大勢の中に混じればぼんやりしてよくわかんなくなっちゃうんだけど……。それでもやっぱりよく探せば、教室の中で蒼生くんだけが目立つの。髪型とか踏み潰した上履きの踵を確認しなくても、友達と話してるときのちょっとした仕草とか、纏う空気で、ちゃんと蒼生くんを認識できた。あとね、こうしてくっついたら、もっとよくわかる」
そんなことを言ったかと思うと、柚乃が少しの躊躇いもなく、正面からおれに抱きついてくる。