そんなとき、横谷が江藤に告白をしてきた。

 いつものように断ったが、横谷は思いのほか引き下がらず「放課後にデートしてくれるだけでもいいから」としつこく食い下がってきたらしい。

 横谷からのしつこいアプローチに困った江藤が、放課後デートを了承する代わりに提示した交換条件が、おれからブレスレットを盗って柚乃と別れさせること。

 茶髪に染めていて背格好がおれと似ている横谷が青いブレスレットを着けて柚乃に近付いたら、柚乃は横谷をおれだと勘違いする可能性が高い。柚乃が人の顔の区別がつかないことを知っている江藤は、それを利用しておれたちの仲を裂こうとした。

 まあ、結果として作戦は失敗に終わったわけだけど。そんなやり方で別れさせようとするなんて、江藤はおれたちを舐めている。 

 これまで、おれは江藤からよく威嚇するように睨まれるなと思っていたのだが……。柚乃の話を聞いて、ようやく合点がいった。あれは、おれに対する警戒と嫉妬と牽制だったのだろう。


「陽菜と横谷くんが、蒼生くんにも謝っといてだって」

「自分たちで謝りにこねーのかよ」

「横谷くんはともかく、陽菜は意地っ張りだから」

 手にのせられた青のコードブレスレットに向かってつぶやくと、柚乃が眉尻を下げる。

 呆れているような、困っているような、複雑な感情をたっぷりと含んだ目で苦笑いする柚乃の頭をぽんっと軽く撫でると、彼女が急に恥ずかしそうにうつむいた。

 たったそれだけのことで、おれを意識してじわじわと頬を染めていく柚乃が可愛い。思わずふっと笑うと、耳まで真っ赤になった柚乃がちらっと上目遣いにおれを見てきた。