うつむいて歩く柚乃の小さな頭。それを見つめて歩くおれの胸がドキドキと鳴る。

 武下たちが言ってたみたいにフラれるなんてことはないと思うけど。いつもと違う柚乃の態度に、少し緊張してしまう。

 考えてみれば、昨日の放課後から柚乃の態度は少し変だ。

 昨日の放課後、おれは中庭の窓にボールでヒビを入れたという容疑をかけられて、山崎に生徒指導室に連れて行かれた。
 
 全く身に覚えのない罪を着せられたおれは、無実を主張して山崎と三十分以上もバトった。そのあいだに、教室で待っていた柚乃の前におれのニセモノが現れたらしい。

 おれのニセモノは、なぜか体育のときに失くしたはずの青のブレスレットを着けていて。おれを装って柚乃に別れを告げると、柚乃が着けていたブレスレットも奪って逃走したそうだ。

 山崎から解放されたおれが柚乃のところに戻ると、彼女は目を真っ赤に腫らして泣いていて。目元に浮かぶ涙を拭いてやろうとしたら、感情を爆発させたみたいにぎゅっと抱き着いてきた。

 びっくりしたけど、いつも遠慮して恥ずかしそうにしている柚乃が自分からおれにくっついてきたのは初めてのことで。彼女に求められたことが嬉しくて、ドキドキした。

 おれの首元に顔を摺り寄せて泣く柚乃の背中を撫でたときの感覚が今も手のひらにはっきりと残っていて、思い出すだけで心音が速くなる。