青のブレスレットを失くした翌日の昼休み。

 弁当を食い終えて武下や西沢としゃべっていると、柚乃が「蒼生くん」とおれに声をかけてきた。教室で、柚乃から話しかけてくるのは珍しい。もしかしたら、付き合いだして初めてのことかもしれない。

 人の顔の区別がつかない柚乃は、似たような恰好をしたクラスメートたちが何人もいる教室でおれを判別するのが難しい。

 人違いを恐れて自分から話しかけてこない柚乃に声をかけるのは、基本的におれの役目だ。それなのに、柚乃が迷うことなく話しかけてきたことに驚いた。


「話があるから、ちょっといい?」

 柚乃の小さな声を聞いた武下と西沢が、顔を見合わせてニヤニヤする。


「蒼生、告白?」

「いや、フラれんじゃない? 慰め会考えとくな」

「うざ」

 しょうもないことを言ってからかってくる武下たちを横目に睨んで柚乃と一緒に教室を出ると、彼女が少しぎくしゃくとした動きでおれのことを誰もいない美術室へと導いた。